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Vol.05本物とは、ものではなく本質を見抜く目である

第5回は認知症診療のスペシャリストとして活躍する医学博士の中野正剛氏。
一流と本物の違い、本物に対する考え方・・・それは、ファッションにとどまらず、何事にも通じる本質的なものでした。

2019/04/30
Vol.05 本物とは、ものではなく本質を見抜く目である

一流と本物には大きな違いがある

今回お話を伺ったのは、医師でもある中野正剛氏。
中野氏は、認知症の画像診断、薬物療法、非薬物的な予防介入など多岐にわたる分野で活躍され、患者様からの信頼も厚く、講演活動なども行う認知症のスペシャリスト。医師として活躍され、一つの道を極めている中野氏は、ファッションに対しては、どのような考え方や判断軸があるのか?
今回、そのような気持ちも持ちながら、本物とは一体何かを伺いました。

手放しで受け入れるか、自分で吟味するか

実は、私と中野氏が出会ったのは、4年ほど前。インスタグラムを通しての交流がきっかけ。
中野氏は、私がインスタグラムを始めた頃には、すでに、インスタグラム歴も長く、且つ数多くのフォロワーさんとの交流もあり、一目置かれる存在でした。
そこで、恒例ではありますが、まず流行りとそれに対するご自身の考えについて伺ってみました。
「流行りのアイテムなどを見て、今の流行りはそうなんだと思っていましたが、ただそれを手放しで受け入れられるかについては、懐疑的な部分もありました。周囲がいいと言ってるものを手放しで受け入れるのではなく、まず自分で吟味して自分に合うのかを判断をするようにしていました。」とのこと。
つまり、自分自身の考え方をもとに判断することが大切とおっしゃる中野氏。
特に何も考えずにいると、流行とは自然発生的にも思えてしまうものですが、当然ながらそうではなく誰かが作り出しているもの。
その流行自体の善悪ではなく、流行りをすべて受け入れてしまっていては、自分自身がないまま流されているだけ。
そうならないためには、そこに気がつく目と自分自身の考えを冷静に見る目が大切になってくる、そう感じます。

現代において、流行りやトレンドという言葉、そして、それを象徴するアイテムは、意識せずとも目に入ってくるもので、それら外側の状況を変えることはできません。
だからこそ大事なのは、それをどのように捉えるか、自分自身の内側なのです。確かにそのとおりだと思うかもしれませんが、意識をしっかり持っておかなければ、気が付かないうちに意識が外側ばかりに向かい、内側にある自分自身の考えを軽視し、情報に流されることも多くなる。そして、それは決してファッションに限ってのことではないと思います。

こうでなくてならないと言う
解釈をやめる

それでは、流行と言う一種の中毒性があるもの、それと自分自身の考え方とのバランスを取るには、何が必要なのでしょうか?
「手放しで流行りがいいとなってしまうと、どうしてもその流れに乗り続けなくてはならなくなる。そうなるとセレクトショップで買ったものでなくてはならない、そこが提案しているものでなくてはならなくなる。そのように、こうでなくてはならないと言う解釈をやめることで楽になるし、自分自身の考えが分かってくる。」
自分自身に大切なのは何かを追求する前に必要なのは、自分自身がもし流行を手放しで受け入れいたのであれば、その自分を受け入れること。肩の力を抜き、受け入れて始めて自分自身にとって大切なものが見えてくる、中野氏の話を伺ってそのように思いました。

こうでなくてならないと言う解釈をやめる

大切なのは、経験の活かし方

ここまでの話を聞き、私は、中野氏がおっしゃるように自分自身の考えをもとに判断し、こうでなくてはならないという解釈をやめるには、そこに至るまでの経験や時間も必要だと感じました。 ただ、それと同時に強く感じたのは、同じような経験は誰でもしてきているものであり、その経験をどう捉えるのかということが大切なのではないかと言うこと。それはファッション以外、例えば仕事でも同じことなのではないか?
そんな疑問に対して、医師である中野氏は、
「いくら知識があっても、それを実践し活かさないと意味がない。知識が多い医師はたくさんいますが、それを現場で活かしきれていない人が多いのも事実。結局、大切なものがわかってない。知識を実践し経験すること。 そしてそれをどのように活かすかが何よりも大切。それはある意味医者としてのセンスもある。」とおっしゃいます。
ファッションにおいてもよく耳にするセンスという言葉。
それは、決して生まれ持った特異な感覚ではなく、経験する物事をどのように捉えるのか、そして、それをどのように活かすのかという自分自身の考え方のことであり、それが表面的に現れているものを一般的にセンスと呼ぶと、私は思いました。

自分自身の知識を実践し経験として活かすこと。そして、その活かし方こそがセンスであるということ。それでは、経験をすること、それを最大限活かすためにはどのようにすればよいのでしょうか?

日々、是修行である

「職人さんの世界と一緒で日々是修行だと思っています。患者さんを見続けていないと経験を積むことができません。料理人だったら料理を毎日作らないと腕が落ちてしまうのと同じです。 そうして経験を積んで、突き詰めていく先には、当然正解があると思うもの。その正解を出そうとすること自体がもしかしたら無駄なことなのかもしれないですけど、それすらもしなければ何の進歩もない。」
そのような中野氏の話を伺い、話を聞いたりアドバイスを求めるときは、つい答えを求めてしまいがちな浅はかな自分に気が付きました。

日々、是修行である

大切なのは、正解を出そうという上辺の考え方や行動ではなく、日々研鑽を積み、その途中にある経験を大切な気付きとして捉えること。
そして、その一つ一つの気付きが自分自身にとっての正解なのであり、さらに言うと、私は今まで誰に対しての正解を求めていたのかと自問自答しました。
なぜなら、自分にとっての正解でなければ、相手にそれを示すこと失礼なことだから。。。
当然、中野氏がおっしゃるように、正解を求める事自体は無駄なことなのかもしれませんが、今回のこの話を聞き、少なくとも経験からくる気付きを大切にすること自体が、すでに自分にとっての正解であり、進歩なのだと思うようになりました。

普遍的なもの、だから残る

ここまでの話は、文字にしてみると、当たり前で普通のことのように感じる方も多いのではと思います。
それは、おそらく成長しようと考えるとき、どうしても安易に真新しい情報や考え方を取り入れがちで、そのほうが成長できるような気がするからであり、
今までの経験をないがしろにしてきたことを認めたくないがゆえの行動だと思います。
なぜなら、今までの経験を活かすことができているのであれば、すでに答えは自分自身の中にあるはずで外側の情報や考え方は必要ではないのですから。
やはり、ファッションにおいても仕事においても、本当に大切なこと、いつでも普遍的であると感じます。
「普遍的なアイテムは、例えば、トレンチコートで言うと、バーバリーやアクアスキュータムは廃れずにずっと愛されている。それは、やはり普遍的なものだから残っているのだと思います。そして、長きに渡りそのスタイルや形で固定されて、普遍的である事、それが一つの本物の形だと思います。」
確かに、目にする機会が減ってしまうブランドがある一方で、昔からのデザインのまま愛され続けるブランドがあるのも事実。
それを考えると、本当に大切なもの、それは、普遍的であり続けることであり、さらには、普遍的であり続ける勇気なのではないでしょうか。

ただし、普遍的と言われるようになるのは、あくまで時間が経ってからのこと。つまり、現在、普遍的なデザインと呼ばれるブランドにも始まりがあり、その頃は当然普遍的とは呼ばれているはずはありません。そこで、一過性の流行りと、そうではなく、後世まで続く普遍的なブランドになるための違いについて伺いました。

周りの影響を受けず、ブレないこと

「普遍的な立ち位置になるかどうかの違いは、地道に改良重ねていくことだと思うし、その過程でブレていないということが何よりも大事。」
確かに、改良を重ね、それを続けるというのは大切な要素でありますが、移り変わりの速い時代において周囲の影響を受けずに、 自分自身の信念を変えずにブレないということが何より大切なのだと思います。競合他社の戦略によって毎回大きな方向転換をしている普遍的なブランドはありません。
当然他社の動向や流行りを気にしないということではなく、あくまでそれを踏まえて自分たちは何をするのか?その自分自身の信念こそが普遍的であり続けることであり、あり続ける勇気なのだと思います。

周りの影響を受けず、ブレないこと

本物とは、ものではなく本質を見抜く目である

自分自身の経験をどのように捉えて活かすかということが大切であり、ファッションにおいても仕事においても、本当に大切なものというのは、
いつでも普遍的であると教えていただいた今回のインタビュー。そんな中野氏に改めて、本物とは何かを伺いました。
「何事も本質を見抜いて、周囲の言うことや流行が本当に正しい方向なのか、それを見る目が本物であること。状況も変わるし、流行も出てくる、様々なもの出てくるが、それを見極める目が何より大切ということ。一流と呼ばれていても、本物を見る目がないままに顧客の言いなりになってしまうと、 芯がないために、大きくなっても一流で終わる。それでは、本物にはなれない。突き詰めて言うと、本物とは見る目が本物かどうかであって、何が本物かという話ではない。 つまり、本物とは、ものではなく本質を見抜く目のことだと思います。だから、本物とは、その人の生きてきた背景によって変わるので、十人十色になるでしょう。」

本物というのは、ものではなく、自分自身の中にある本質を見抜く目のこと。だから、本物とは十人十色。
ただし、その本質を見抜く目を周囲の環境や流行りに惑わされることなく、確固たる信念で成長させること、それが何よりも大切であり
それができる人のことを本物と呼ぶのでしょう。
これからも本物を知る旅は続いていきます。

それではまた次回・・・

本物のアイテムを
紹介していただきました

Grand Seiko

お祖父様の形見として今も愛用していらっしゃるグランドセイコーの時計。メンテナンスを繰り返しながら、丁寧に使われているからこそ、時代を超えた品のある佇まいを感じます。

Grand Seiko

AUDEMARS PIGUETのロイヤルオーク

AUDEMARS PIGUETのロイヤルオーク

言わずとしれた世界三大時計の一つ、オーディマ・ピゲ。その中でもロイヤルオークはどんなスタイルにもあう定番モデルと言えます。

J.M. WESTONのGOLF

J.M. WESTONを代表するモデルの一つであるGOLF。メンテナンスしながら、綺麗に履き込まれているところが、中野氏の愛情を感じる一品。

J.M. WESTONのGOLF

Montblancのボールペン

Montblancのボールペン

研修医時代から愛用されていらっしゃるモンブランのボールペン。こちらも今なお現役で、他のアイテム同様、こだわりとともに長きに渡り変わることのない愛情を感じます。

中野正剛氏

PROFILE

中野正剛氏。
医学博士。
日本老年精神医学会専門医・評議員、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年医学会専門医、日本核医学会専門医。 認知症の画像診断、薬物療法、非薬物的な予防介入など多岐にわたる分野で活躍する。認知症診療のスペシャリスト。

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