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Vol.02毎日同じものを着ても毎日違って見えるのが本物

第2回はセブンフォールド社代表取締役の加賀健二氏へのインタビュー。長年の経験から行き着いた考え・・・
それは、究極にシンプルで深みのあるものでした。

2019/02/22
Vol.02 毎日同じものを着ても毎日違って見えるのが本物

本物かどうかは、自分の中の基準で決める

今回お話を伺ったのは、セブンフォールド社の代表取締役 加賀健二氏。
加賀氏は、フランコ・ミヌッチ氏が立ち上げたフィレンツェの名店「TIE YOUR TIE(タイ・ユア・タイ)」の日本法人の代表を経て、
2011年にセブンフォールド社を設立。
現在は、ハンドメイドのセッテピエゲ(7つ折り)ネクタイ、Atto Vannucci/アット ヴァンヌッチを世界的に展開。
長きに渡り、メンズクラシック界に携わり、日本のみならず世界的にも著名な、そして、経営者としての顔も持つ加賀氏に本物とは一体何かを伺いました。

気分を満足させてくれるかどうかが大切

今回、加賀氏にまず伺ったのは、本物とは何か?ということ。
確固たるスタイルと雰囲気ある大人の佇まいの根源を知るべく、まずは率直に伺ってみました。
「そもそも本物であるか本物でないかって言うのは、自分の中の基準ですよね。まず、私の場合、自分の気分を満足させてくれるアイテムかどうかが、
1番プライオリティーが高いです。そのアイテムがハンドメイドで手が込んだものでないとダメなどはなく、自分にとって1日気分良く過ごせるものであれば、ハンドでもマシンメイドでもこだわらない。それ以外にも長く着れる定番のアイテムかどうかという点も1つの基準であります。本物か本物でないかという考えは、自分自身のスタイル含めた上で、良い関係性が成り立つブランドと付き合っていく中で作り上げていく方がよいと思っています。ですので、ここのジャケットしか認めませんっていうのはないです。それと、流行に左右されないというのも大事。」と非常にシンプルな考えでした。
数多くのアイテムをご自身でも試されてきたご経験を踏まえてのシンプルな考え。
本物かどうかを判断するにあたり、何かの情報を基準とするのではなく、ご自身の中の基準を元に考えていくからこそ、スタイルという目に見えるものだけではなく、雰囲気という目には見えない要素にも大きな影響を与える。加賀氏の話を聞いて、私はそう思いました。

何かの情報ではなく、自分の中の基準を元に考える。ではその基準を作るために何が大切なのでしょうか。それに関して
「どこの情報を参考に見ますというのを辞めれれば、まずはハッピーになりますよ。あとは、お手軽なもの買わないこと。車もロールスロイスは何台も買わないですよね。それと同じで200双のシャツをそんなに何枚も買わない。手軽に買えるものではなく、ちゃんと気に入ったシャツを1枚ずつ買い足していく。それができれば楽ですよ」とおっしゃる加賀氏。

自分の考えに重きを置く

つまり、それは、情報を見たとしても、あくまでそれは一つの情報であって、そこにあるものがすべてではない。本当に気に入るのであれば別だが、手軽に手に入るからという理由だけで闇雲に手に入れないということ。さらに・・・
「何に重きを置くのかが大事。情報やブランド、アイテム自体に重きを置くのか、それとも自分に重きを置くか。自分の考えにもうちょっと重きを置いたらどうですか」とお話も。それを聞いて思うことは、それなりに服が買えるようになり、何かを買っても昔のような純粋な喜びが薄れていっていること。それは、まさに、情報>自分の基準となってしまっていたからだと強く感じます。

自分の考えに重きを置く

大切なのは心の余裕

自分自身に重きを置くことで、周囲の情報を一歩引いた状態で見ることができるようになる。そこから自分の基準ができてくる。
言葉にすると簡単に感じるものですが、多くの情報を目にする現在において、そこには、自分自身の心の強さと柔軟性が必要なのではないかと思います。
「もちろん、オーダーするなど自分の服を買うとき、全てがうまくいくわけではないです。3勝2敗で6割6部7厘で勝ち越しでいいじゃないですか。それくらいがベストだと考える。それくらいの腹つもりでいれば、失敗したと感じた時でも、自分の言い方が悪かったんだなと思える。気持ちの面でどのようにリカバリーするかですよね。そしてリカバリーするには、自分に心の余裕があるかどうかが大事。」
服というものを介してはいるものの、服が出来上がるには、あくまで人と人とのコミュニケーションあってからこそ。そこには時として相性もあるはず。
にもかかわらず、絶対気に入ったものでなければならないと思うのは、もしかするとファッションの楽しみを減らしてしまっているのかもしれません。
たまには失敗もある。そこも含めて楽しめる余裕、それもまた自分自身の基準を作る上で大切な要素だと思います。

3勝2敗くらいでベストと思える余裕が生まれるまでには、当然それ以上の失敗もあったという加賀氏。数多くのスーツ・ジャケットなどをオーダーし、多くの職人さんの服に袖を通してきた加賀氏は、どのような職人さんに魅力を感じるのでしょうか?

自分のスタイル持ってる職人さんは面白い

「面白いなと思うのは、自分のスタイル持ってる人ですよね。
私に寄せてくるのではなく、その職人さんが作ったアイテムとしてらしさがあるものあがってくると、その時は、逆にホッとするんですよね。あくまでもこれは僕のやり方なんでって言ってきてくれるのは嬉しいですね。」
当然のことながら加賀氏の要望は聞きつつも、職人さんご自身のやり方や匂いはしっかりと残す。その絶妙なさじ加減ができる技術と勇気があるからこそ、経験豊富な氏も面白いと感じるのだと思います。

自分のスタイル持ってる職人さんは面白い

また、この話を聞き、強く感じるのは、どのようなジャケットやスーツでも、職人さんらしさと加賀氏らしさが同時に存在しているということ。
私は、このインタビュー前まで、加賀氏の確固としたスタイルの裏には、経験に裏打ちされた強いこだわりが存在している。そのように想像していました。
しかし、それは間違いで、むしろその逆で、相手の匂いも尊重しながら、自分らしさも共存させる考え方。
それを目の当たりにすると、こだわりとは、一般的に言われる強固で排他的なものではなく、自分の中の基準を押さえつつ、
余裕と柔軟さを合わせ持つこと。本当はそのような考えを「こだわり」と呼ぶべきなのではないかと。そう思うようになりました。

周りが何と言うかは全く関係ない

本物かどうかを判断するにあたり、何かの情報を基準とするのではなく、ご自身の中の基準を元に考えて行く。
また、いいと思ったものは、余裕を持って柔軟に受け入れる。
そんな姿勢と考え方は、TIE YOUE TIE FLORENCEやセブンフォールド社においてはどのよう形で反映されているのでしょうか?
「セッテピエゲのネクタイは、はじめの5年間はほとんど売れませんでした。芯地もなくて締めにくいなんて結構言われたけど、そう言われるたびに、
ただご案内をする方法を間違えたんだな、情報を伝える方法を間違えたんだなとしか思わなかった。物が悪いなとは全く思っていなかったので
伝え方が悪かったんだなとすごくシンプルに考えていた」とのこと。
5年もの間、思うようなビジネス展開でなかったにもかかわらず、もどかしさは「なかった」とおっしゃる加賀氏。
一見、先の柔軟に受け入れるという考えと相反する考え方のようですが、しかし、その徹底した考えに行き着くことができるのは、
ご自身がいいと感じる基準が揺るぎないものであるからこそ。

そして、その基準が揺るがないが故に、受け入れるものとそうでないものの線引が明確で、基準に合わないのであれば、周囲がどのようにいうかは全く問題ではない。
つまり、どのような判断を下すにしても、結局のところ自分自身と向き合うことができるか、そしてその勇気があるかどうかが大切なのだと思います。

リスクが高いことを楽しむ

「もう一つ大切なのは、リスクが高いことを楽しめるかどうかということ。常にリスクを楽しめるかどうかだと思う。ビジネスも生活も。そこからしかカルチャーは生まれない。」
今でこそ、世界的にも多くファンを持つセッテピエゲのネクタイ。
まだ馴染みのないころから、ご自身の判断を信じ進んできた加賀氏は、まさにリスクを楽しむことをリアルに実践されきた方。
当然、人生において、程度の差こそあれど、多少のリスクを取ることはできるでしょう。しかし、果たして5年という長い歳月=リスクを楽しむことはできるだろうか?そう考えると、自分自身と向き合い、確固たる自己を作らなければ、本物で居続けることはできないのだと思います。

リスクが高いことを楽しむ

毎日同じものを着ても毎日違って見えるように
あなたのパーソナリティを磨きなさい。

そして、加賀氏は、最後にこんな話をしてくださいました。
「フランコ・ミヌッチが、私に<毎日同じ服を着ても違う服に見えるように、あなたのパーソナリティーを磨きなさい。それができなければまだまだだね>とよく言っていました。結局、毎日同じグレーのトラウザーズを履いていても、 それをどれだけ新鮮にキレイに履けるのか。同じ白シャツでもどれだけキレイに新鮮に見せれるか。そのためには手入れをする必要があるし、その時間も必要。余裕も必要。そして、究極のところ、モノではなく、ご自身がブランドとして成立するかどうかが一番大切ということ」
最終的には、ブランドではなく、自分自身がブランドとして成立するほどの人間であること。
そこを突き詰めていかなければ、いつまでも周りの情報ばかりを気にして、自分自身がブランドとして成立することのないまま、年老いてしまっていることでしょう。

加賀氏には、揺るぎないご自身の基準とリスクをも楽しむ余裕があり、そして、その確固たるスタイルと雰囲気ある大人の佇まい根源には、
シンプルだが深い信念がありました。

ファッションはあくまでもファッション。
それを身にまとう自分自身の成長、すなわち、自分自身がブランドとして成立するほどの人間になることが、本物への道なのだと思います。
そして、やはり、本物の大人になるためのこの旅は、自分自身を振り返り、成長していく旅であることに間違いはないでしょう。

それではまた次回・・・

本物のアイテムを
紹介していただきました

Atto Vannucci / アット ヴァンヌッチ のセッテピエゲタイ

言わずとしれた7つ折りのネクタイ。柔らかくスカーフのようなのネクタイは、胸元にエレガントさを加えてくれます。シーズン毎に作られるオリジナル生地は、1930~40年代のアーカイブを元に現代的な色を入れたAtto Vannucciならではのもの。

エルメスダッフルコート

MARINIのUチップシューズ

Pコート

全く時代を感じさせない手入れの行き届いた状態で、今もご愛用されている戦後に生産されたPコート。気に入ったものは、丁寧にメンテナンスをしながら長く愛用する加賀氏の服に対する思い入れが現れているアイテムです。

ジョヴァンニ・マイアーノのジャケット

秋冬のスナップでよくお見かけするこちらのジャケット。実のところは、サマーカシミヤとのこと。12年ほど前にオーダーされたというこのジャケットは、今も変わず大人の雰囲気を醸し出しています。

キャップ

加賀健二

PROFILE

セブンフォールド社 代表取締役 加賀健二氏。
フランコ・ミヌッチ氏が立ち上げたフィレンツェの名店
「TIE YOUR TIE(タイ・ユア・タイ)」の日本法人の代表を経て、
2011年にセブンフォールド社を設立。
フィレンツェに本社とネクタイ工房を構える。
ハンドメイドのセッテピエゲ(7つ折り)ネクタイ、
Atto Vannucci / アット ヴァンヌッチを世界的に展開。
長きに渡り、メンズクラシック界に携わり、日本のみならず世界的にも著名。
2017年6月には「TIE YOUE TIE FLORENCE」をオープン。

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