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Vol.07本質を追求する。ただそれに徹するのみ

第7回は、日本が誇る革製品ブランドT・MBHの代表 岡本拓也氏。
本質を見抜く力と成功に至るまでの考え方・・・それは、これまでの考え方が根本から変わる話でした。

2019/07/12
Vol.07 本質を追求する。ただそれに徹するのみ

何事においても大切なもの、それは信頼

今回お話を伺ったのは、T・MBH(ティーエムビーエイチ)の代表 岡本拓也氏。
T・MBHは、「色気のある革製品を作りたい」という岡本氏の想いから生まれたブランド。
本体の形はもちろん、細部の作り込み、触った感触、コンセプトまでもデザインと捉え、その全ての過程を手縫いにこだわるのもその想いから。
アイテムとしての美しさや色気だけではなく、実用品としての機能と使いやすさを兼ね備えたアイテムは多くのファンを魅了しています。
現在では、革製品の作成、デザイン、ブランド運営だけではなく、販売教育コンサルまでも行う岡本氏にお話を伺いました。

異業種からのスタート

実は、私と岡本氏の接点は、私が岡本氏の手がける商品を手にしたことが始まり。
私が独立して間もない頃、岡本氏が手がけたiPhoneケースがヒットし、まさにそのiPhoneケースを使ったのがきっかけでした。
その後、縁がありLECTEUR(レクトゥール)のオーナー五十嵐裕基氏から紹介を頂き、お会いすることになりました。
そのような経緯でお会いした岡本氏に、まずはどのようなキャリを積まれてきたのかを伺いました。
「最初はアルバイトからスタートして、14年ほど塾の講師の仕事をしていました。最終的には、講師ではなく応募者の面接、面接した講師の指導をする仕事をしていました。 具体的には、研修や教師の見本を作るという仕事です。マニュアルを作り研修し、100ある教室をすべて1つずつ見に行き、再び指導するという仕事でした。」 事前に、岡本氏が塾講師をされていたという情報は知っていたものの、塾講師を指導するという立場まで上り詰めたと伺い、ジャンルは違えど、有名ブランドに育て上げるための何か大切な、そして共通する考え方がここにあるのではないかと思いました。
そのため、今回は、革製品に主軸したインタビューではなく、仕事のジャンルを超えて大切な考え方や姿勢、そのような根本的な要素が伺えるのではないかという期待とともにインタビューを始めました。
そこで、まず、ぜひとも聞いてみたいと思ったこと。それは「同じ指導を受けても伸びる人と伸びない人がいる」ということ。
当然、指導する側に一定のレベルが求められることは承知の上ですが、このような違いが生まれてしまう経験は、ある程度の年齢になれば誰しもあるはす。
それについて岡本氏は・・・

「伸びる人は、素直で生意気な人」と明確にお答えになりました。
具体的には「素直で純粋で、ただ言うことを聞くだけでは、ダメなのです。私が言う生意気というのは、1を聞いて10にできる力があるということ。 つまり、こう言われたけど、それを越えてやろう、私だったらこうするなといった工夫を入れられるかどうか。ただしはじめは間違えるから注意される。注意されるが、それをバネにチャレンジすることがすごく重要で、ただ聞いているのでは何の意味もない。」
確かに、伸びるスタッフは、言われたことを実行する中にも自分なりの考え方、その考え方に基づいた工夫が入っているもの。言われたことをやっているだけでは、先生や指導者を超えることは出来ない。 それ以上の努力とともに、自分なりの工夫を加え先生や指導者を超えようと思っている人が最終的に伸びるのだと思います。

物の仕組みを知る

しかし、始めたばかりの人にとってみれば、その努力の方向性が合っているのかどうか不安になることもあります。そして、その不安は、何かを習得しようとしたとき、常に湧き上がってくるもので、私も例外ではありません。
その点について、岡本氏は、「ただ素直で生意気というだけで勝手に成長するわけではないので、その後は、物の仕組みを知るということを教えています。 色々情報収集しすぎる人は、参考書を買って満足するタイプ。しかし、本当に重要なのは、その公式の仕組みを知ることであって、さらには、公式は何に使えるのかを教えることの方が重要なわけです。 例えば、売ると言うことは、なんだろうと考えたとき、ものが売れる根本は何なのかを知らない限り、技術だけでは噛み合っていかなくなる。その本質を教えるようにしています。例えば、T・MBHではお客様に行うのはたった一つ。 それは信頼を勝ち取ること。ただそれだけ。つまりお客様にとってのデメリットも伝えなくてはいけないし、欲しいものは何かを真剣に向き合わないといけない。とにかく信頼を勝ちとることだけを行うようにしています。」
岡本氏の話を伺い、努力の方向性に対する不安というのは、実は、この方向であっているのかという不安ではなく、努力をすることだけが目的になってしまっているからでてくる不安である。
情報を得ているだけで、それ以上深掘りすることなく、またそのような自分自身に気づくことなく、勝手に不安になっているだけなのだと感じました。
情報が溢れている現代では、ほんのわずかな情報に振り回され続け、結局情報が意味すること、公式が意味することを追求できず、また新たな情報を求める。気が付かないうちに、このような悪循環に陥ってしまっていることは多いのではないでしょうか?

物の仕組みを知る

最初から本質なんてわからない

今回の話は、岡本氏のキャリアを伺うところからスタートしましたが、お話いただく内容すべてが論理的であり引き込まれていきます。
その論理的な話が故に、私の疑問や気になることもさらに深くなってくることを感じました。
その一つが、どうすれば本質を理解することができるかと言うこと。
それについて岡本氏は、「答えが出るまで結果が出るまでは間違えてると思っています。つまり、売れてないのは間違えているわけなので、売れるまで工夫し続けます。 こうやってもダメこうやってもダメを繰り返す。つまり、本質からずれているから売れないことがわかるので、売れるまで様々なことをしていく。 その試行錯誤の後、売れ出してから初めてなぜ売れたのかを分析していくと、少しずつ少しずつ本質が見えてくる。本質は後付けです。理科の実験と同じで、結果からの考察なんです。 結果があってそこから考察して理論が出来上がり、本質が見えるわけです。頭の中にある理論を現実に当てはめようとしても、それは不可能な話。実験の例で言えば、実際は空気抵抗があったりするわけなので、理論からズレます。 実際の現象を集めて自分なりの理論を導き出すことが大切だと思います。」
つまり、何も始めていない、行動していない状態で本質を知るということは不可能で、理科の実験のように、行動したことによる事実や事例から導き出される傾向から結論を出していく。そこで初めて本質が見えてくるという事。 はじめから、本質はこうだと無用に思い込んで何かに取り掛かってしまうから、間違ったときに自分自身の本質を見抜く目に対して疑心暗鬼になってしまう。それが積み重なると、何か行動を起こすときに、 「また失敗するのでは?本当に本質はこうなのか?」という不安が大きくなり、全力で取り組めなくなってしまう。
そうではなく、本質というのは、行動の先、それもいくつもの行動の末にやっと見えてくるものであると考える。
ここまでの話を聞き、よく考えて見えれば、単に情報を得ただけで何かの本質がわかるという事自体がおかしな話ではありますが、どこかで失敗したくない、手っ取り早くうまくいく方法を身につけたいという思いからはじめの一歩を踏み外してしまっていたように感じてなりませんでした。

要するに、失敗したくないという気持ちが強くなってしまったため、本質を知るための本質から遠ざかってしまっていたのですが、
岡本氏自身、ご自身のブランドで数多くの失敗をされたとおっしゃいます。
「T・MBHの商品は一時期100アイテムぐらいあったのですが、ほとんど失敗作です。100アイテムの中で、売れたのは5アイテムほど。そんなものなんです。 平たく言うと、ほとんど犠牲者です。しかし、それを作ってお客様に見せないことには、それが売れるということは分からないわけです。やってみてから、その5つのアイテムが、一体なぜ売れたかを分析すると見えてくるものがある。」
100アイテムを作って、売れたのは5アイテムほど。その5アイテムをわずかと考えるか、5アイテムでもなぜそれが売れたのかを考えて、 本質を知る方に進むのかには大きな違いがあるように思います。外から見るとスマートに成功されたいるように感じていましたが、実はその裏には、多くの失敗がある。 そして、失敗作というあまり話したくないであろう部分も包み隠すことなくはっきりと言える姿勢。当たり前の話であり、敢えて文章にするほどの事ではないのかもしれませんが、 これこそが、うまくいくかどうかの本質であり、原点であると感じます。情報が多く、結局何がいいのか分からなくなりがちな今だからこそ、立ち返る場所は、原点であり、それはこれからも変わることなく大切なことだと思います。

失敗は怖くない

ここまでの話で、岡本氏は、失敗することに対しての怖さがないのだとも思ってきました。それは、まさにその通りで「失敗は怖くないです。 毎回それで落ち込んでいたら、次のチャンスを逃してしまう。これがダメで、こっちもダメでとなったとしても落ち込んでる場合じゃない。 売れるものが見つけるのは、売ってみないとわからない。単純にノウハウを蓄積するための行動ですから、落ち込む必要は全く無いと思っています。」
一見すると、よくあるポジティブシンキング等にも聞こえますが、岡本氏の話が一般的なテクニックとしてのポジティブシンキングと大きく違う点は、テクニックではなく、本当にそうであると疑いの余地なく思っていること。
だからこそ、どんな場面でもどんなジャンルの仕事であってもブレることなく、結果を出せるのだと思いました。

失敗は怖くない

真摯に向き合うことで生まれるアイテム

では、ここでさらに具体的に失敗や試行錯誤を経て生まれたTMBHを代表する葉合わせアイテムについて伺ってみました。
※葉合せ(はあわせ):
ステッチを使わず、包丁と接着技術のみで組み上げたシリーズ。「コンパクト」と「大容量」を両立させたT・MBHオリジナル製法による革小物。

「もともと私は、手縫い職人なのです。なぜ手縫いかというと、1つは憧れがあった。例えば、いろんなブランドで手縫いだと高い金額で売っている。だから単純ですが、 手縫いは、すごいんだと思ったのです。しかし、これをビジネスにするとき、手縫いは高い。ですので、私がとった方法は2つ。
1つは、手縫いの商品に付加価値を乗せる。それがエキゾチックレザー、象革やガルーシャやクロコなどの革で、付加価値を乗せ、値段が高くても売れるようにした。 もう1つは、やはり手縫いだと時間かかって価格が上がるので、縫わないで作るという発想をしたこと。その結果、コストを抑えた商品を作ることができました。 しかし・・・売れない。よく考えると当たり前でした。初めて作ったのは封筒でしたから。封筒なんていらないんです。1回6,000円かけて封筒を送るわけがない…失敗作でした。 そこから試行錯誤して封筒を向かい合わせにつけ、それがロディアケースになり、名刺入れになり、お札入れになったんです。つまり本当の実用品にすることができた。 そして、実用品になって初めて売れるようになった。こういう進化をしたわけです。まさに失敗のプロセスです。ちなみに、葉合わせは、このようにコストを抑えるためだけに作ったのですが、実は壊れにくい、大容量などの特徴には後から気づきました。
ましてや、コインケースにお札挟まると気がついたのは、お客様です。コインケースとして売れなかったときに、そのアイデアをいただき、翌日から急激に売れました。」
このように、代表的なアイテムが生まれるまでの過程を伺うと、今までの話にあったことそのままであることがよくわかります。
そして、作っては失敗しを繰り返しながらも、次につなげ進化させ続けられる理由を、
岡本氏は端的に「信頼のためにお客様の要望にいかに本気で答えるかを考えた結果」とおっしゃいます。
それこそが、まさに岡本氏の中での本質であり、そこにたどり着いたのは、どこまでもブレることのない信念と行動があってこそだと思います。

信念に裏打ちされた明確な行動。そこから生まれた代表作。
もし、岡本氏が、違った考えで商品を作っていたとしたら、今目にする商品の殆どはなかったのかもしれません。
偶然お客様が言った一言、それも、何度も要望に答えようとしたからこそ、生まれたものであり、その試行錯誤がなかったら違った結果になっていたことでしょう。
ビジネスをする上で、大切な事でありますが、きっと、この岡本氏の行動の上辺だけを捉えてしまっては、結果を出すことは不可能で絶対的に必要なのは、自分自身にとっての信念であり、そこから生まれる行動なのだと強く思います。

名を残したい

それと同時に、今までなぜうまく行ったのかをここまで明確に答えられるという事自体に驚きの連続でした。
そんな岡本氏に、今度は未来について伺ってみました。
「友人にこう言われたんです。メゾンタクヤがいて、岡本拓也がいる。ただし、歴史的に言うと生き残ったものが本物。生き残ったものが正義。つまり、滅びたら正義じゃないわけです。勝った方が正義になるわけです。そうしたら、私はメゾンタクヤよりも生き残らなくてはいけないのです。絶対に。それしか方法はないんです。それは、大きいモチベーションになってます。」
そして、そのことは決して、マイナスではなく、「ライバルがいることはとてもありがたいし重要なこと」と明確に語られる姿勢がとても印象的でした。
私は、この岡本氏の話を聞き、ものの見方には二面性があるという話を思い出しました。しかし、今ここで私が言いたいのは、テクニックや表面的なポジティブシンキングではなく、自分自身という軸が明確にあれば、プラスの側面を見るということは、気休めではなく、本当の強い力を発揮するということ。
結局は、表面的な部分ではない、自分自身の軸や信念というものが何よりも大切なのだと思います。

名を残したい

本質を追求する。ただそれに徹するのみ

何かを行動する前に、不安や失敗したくないという想いが先行してしまい、本質を探そうとしてしまう。そしてやっと行動しても、失敗するから、本質を見抜けていない自分に自信をなくし、次に行動するときは全力で取り組めない。
そういった悪循環に陥るのは、根本的な考え方が間違っており、はじめから本質はわかるはずもなく、行動や実践の中での失敗を繰り返し、本質を見つけていく。そしてその失敗に屈する事なく、進み続けるには、テクニック的なポジティブシンキングではなく、本当にそうであると疑いの余地がないほどの確固たる信念が大切である。そのように教えていただいた今回のインタビュー。
そんな岡本氏に最後に本物とは何かを伺いました。
「自分が本物かを考えるとき、他人の目を意識していると思います。偽物の人生を生きてる人なんていないわけだから、みんな本物だと思います。だから、本物という話ではなく、私が大切にしてる本質という話をすると、それは信頼です。信頼を取りに行くと言う事は、私にとっては大切。例えば、お金をもらうことを目標にして、上辺の信頼を得ようとしていたら、それは必ずバレます。そんな本質は見抜かれます、簡単に。だからお金を追うのでなく、信頼を追っていけばいい。それで生きていけるわけなので。だったら思いっきり信頼だけに特化する、ただそれだけです。」

本物か偽物かという議論自体が不毛。
たしかに、誰も悪くなろう、偽物になろうと思って生きているわけではありません。
だから、あくまで本物かどうかは自分自身の中での問題。
そして、自分自身の中で、はじめから本質が分かった気になり動くのではなく、信念を持ち、動く中失敗する中で得た経験は、
きっと本質を導き出してくれるはす。

そう言われているように感じました。

行動と失敗の中から生まれる本質を求めて。
これからも本物を知る旅は続いていきます。

それではまた次回・・・

本物のアイテムを
紹介していただきました

葉合せの名刺入れとおりつむ

ステッチを使わず、包丁と接着技術のみで組み上げた葉合わせの名刺入れはコンパクトで大容量。大量に入れても形崩れせず、革のエイジングを存分に味わうことができます。 おりつむは、1枚革の厚みを活かしたクラッチバッグ。お財布、携帯、キーケースなど、いつも使うものの収納に。

葉合せの名刺入れとおりつむ

iPhoneカバーと葉合せのコインケース

iPhoneカバーと葉合せのコインケース

最高級の革と独自製法による出来上がった存在感のあるiPhoneカバー。コインケースのボタン部分は磁石になっており、お札を止めることもできるので、マネークリップとしても使用可能。

雫菱(しずくびし)のカフリンクスとバングル

ガルーシャに漆加工を施した製法で、ツヤと色むらが特徴の雫菱。表面に革をはめ込んだ後、サンドペーパーで磨き上げる、独自の研磨法により、丸みを帯びた美しいフォルムを実現。

雫菱(しずくびし)のカフリンクスとバングル

岡本拓也氏

PROFILE

日本が誇る革製品ブランドT・MBH(ティーエムビーエイチ)の
代表 岡本拓也氏。
「色気のある革製品を作りたい」という岡本氏の想いから生まれたT・MBHは、
本体の形はもちろん、細部の作り込み、触った感触、コンセプトまでもデザインと捉え、その全ての過程を手縫いにこだわる。
アイテムとしての美しさや色気だけではなく、実用品としての機能と使いやすさを兼ね備えたアイテムは多くのファンを魅了。
現在では、革製品の作成、デザイン、ブランド運営だけではなく、販売教育コンサルティングも手がけ、幅広く活躍。

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